論文掲載:室温強磁性半導体によるスピン注入の初実証
室温強磁性半導体によるスピン注入の初実証に関する研究成果はScientific Reports誌に掲載されました。本研究は東京大学との共同研究の成果です。
室温強磁性半導体の実現は固体物性と材料科学において、長年の夢の一つです。たとえば、2005年のScience誌に“Is it possible to create magnetic semiconductors that work at room temperature?”は125重要課題の一つとして掲載されています(125 big questions that face scientific inquiry over the next quarter-century. Commemorative issue celebrating the 125th anniversary of the science magazine)。しかし、今迄に研究された強磁性半導体、たとえばGaMnAsは室温よりキュリー温度が低く、室温動作が極めて困難でした。一方、我々はFe系強磁性半導体を提案し、2012年に世界初のn型強磁性半導体InFeAs, 2014年にp型室温強磁性半導体GaFeSb、さらに2018年にn型室温強磁性半導体InFeSbを実現してきました。しかし、以前にも、室温強磁性半導体を主張した研究も多くあり、その起源が未解明なものがほとんどであり、本当に真性な室温強磁性半導体が出来たのか、それとも半導体中の単なる磁性偏析の粒子だけなのか、議論が多くありました。一時期には、強磁性半導体の研究に対する不信感から、UMO (Unidentified Magnetic Object)と批判されてきました。ちなみに、高温超伝導でもUSO (Unidentified Superconducting Object)という言葉もあり、先日にNature誌に掲載された室温超電導の論文が取り下げられたばかりです。強磁性半導体においても、本当に室温強磁性ができたかどうか、単に磁性の評価だけでなく、他面的に証明する必要がありました。
今回に我々は室温強磁性半導体GaFeSbを用いて、重要な機能の一つ「スピン注入機能」をスピンポンピング法およびトポロジカル絶縁体BiSbの巨大な逆スピンホール効果を用いて実現しました(図1)。これにより、我々が開発に成功した強磁性半導体はちゃんと室温でスピン注入源として動作できることを示し、真性な室温強磁性半導体であることを示しました。
図1.BiSbトポロジカル絶縁体/GaFeSb強磁性半導体におけるスピンポンプピングによるスピン注入および逆スピンホール効果による起電力の発生。
論文掲載:超高密度磁気記録4 Tbit/in2に向けた新しい磁気センサー技術
超高密度磁気記録4 Tbit/in2に向けた新しい磁気センサー技術「SOTセンサー」に関する研究成果がApplied Physics Letters誌に掲載されました。本研究はスト―レージ大手メーカのWestern Digitals社との共同研究の成果です。
従来のTMR効果を用いたTMRセンサーは限界に向かいつつあります。これは、TMRセンサーには、固定層を含み、最低でも2の磁性層が必要なため、20 nm以下の微細なデバイスの作製が困難な他、熱雑音やスピン移行トルク雑音が増大するためです。そこで、逆スピンホール効果を用いるSOTセンサー(図1)を用いれば、TMRセンサーの問題点を解決できます。しかし、SOTセンサーを実現するためには、高いスピンホール効果を有する材料が必要です。従来の重金属を用いると、SOTセンサーの高いSNR比を実現できません。そこで、Pham研究室で開発したBiSbトポロジカル絶縁体を用いれば、高いSNR比を実現できることを理論的に示し、かつその実証を行いました。本研究成果により、超高密度磁気記録4 Tbit/in2の実現が大きく前進します。
図1:SOTセンサーの構造
論文掲載:300℃で低温成長したYPtBiの巨大なスピンホール効果を実現
Si Back-end-of-line (BEOL)プロセスに適応すべく300℃で低温成長したYPtBiの巨大なスピンホール効果を実現した研究成果はAIP Advances 誌(オープンアクセス)に掲載されました。
YPtBiはトポロジカルハーフホイスラ合金で、高いスピンホール効果と高い熱耐久性を両立できる物質であり、スピン軌道トルクスピンデバイスのスピン流源として有望です。しかし、YPtBiはゼロギャップ半導体のため、バルクのキャリアを抑制するために、600℃の高温で製膜する必要がありました。今回の研究では、半導体Si回路のBEOLプロセスに適応できる温厚な温度300℃でもYPtBiを製膜できる条件を見だして、巨大なスピンホール効果を実現しました。
なお、本研究はキオクシア社から支援を得て行った研究です。
論文掲載:NiO挿入によるBiSbトポロジカル絶縁体のスピンホール性能の向上
NiO挿入によるBiSbトポロジル絶縁体のスピンホール性能の向上に関する研究成果はJapanese Journal of Applied Physics誌に掲載されました。本研究はサムスン日本研究所との共同研究の成果です。
本研究では、下部層としてのBiSbとCo磁性薄膜の間にNiOを挿入すると、BiSbからCoへのSb拡散を抑制し、BiSbの有効なスピンホール角が大幅に改善すること、また、Coが垂直磁気異方性を示すことを見だしました。本成果はBiSbトポロジカル絶縁体をSOT-MRAMへの集積する際に、重要な技術である。
VANJ Conference 2022での発表
応用物理学会学術講演会の講演奨励賞を受賞!
D3の白倉君は2022年秋季応用物理学会学術講演会の下記の発表に対して、講演奨励賞を受賞しました。講演奨励賞賞状の贈呈式および講演奨励賞受賞記念講演が2023年3月に開催される予定の春季応用物理学会学術講演会(上智大学)で行われる予定です。おめでとうございます!
[23a-B201-7] Efficient spin current source using a half-Heusler alloy topological semimetal with Back-End-of-Line compatibility
〇Takanori Shirokura、Tuo Fan、Nguyen Huynh Duy Khang、Pham Nam Hai
国際学会MMM2022で発表
国際学会MMM2022でD3の白倉君、D1のHuy君、元研究員のKhang氏(現ホーチミン市教育大学)、共同研究者の高橋氏(NHK)が下記の発表を行いました。
[EOF-13] Takanori Shirokura, Fan Tuo, Nguyen Huynh Duy Khang, Pham Nam Hai. “Giant spin Hall effect in a half-Heusler alloy topological semimetal with high thermal stability”.
[IOA-07] Ho Hoang Huy, J. SASAKI, N. H. D. KHANG, Pham NAM HAI, Q. LE, B. YORK, X. LIU, M. GRIBELYUK, X. XU, S. LE, M. HO, H. TAKANO. “Giant inverse spin Hall effect in BiSb topological insulator for SOT reader”.
[COB-06] Nguyen Huynh Duy Khang, Takanori Shirokura, Fan Tuo, Mao Takahashi, Naoki Nakatani, Daisuke Kato, Yasuyoshi Miyamoto, Pham Nam Hai. “Ultralow power nanosecond spin orbit torque magnetization switching induced by BiSb”.
[IPA-05] Mao Takahashi, Naoki Nakatani, Daisuke Kato, Kei Ogura, Yoshinori Iguchi, Pham Nam Hai, Yasuyoshi Miyamoto. “Magneto-optical observation of magnetic domain formation and drive in magnetic nanowire memory with topological insulator BiSb”.