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本研究の背景

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半導体スピントロ二クスの研究とその現状

半導体と強磁性体は情報化社会を支える材料としてそれぞれ大きな役割を果たしている。半導体は集積回路や光通信素子などの様々なデバイスに応用されている。これらの半導体デバイスにおいては機能が高速な電子の電荷によって支えられているため、動作が大変高速である。一方、強磁性体はハードディスクなどの情報記録媒体に広く利用されており、これらの磁性体デバイスには電子のスピンが持つ「不揮発性」という特徴が生かされている。磁性体デバイスは電力をまったく使わずにデータを保存できる「超低消費電力」という性質を有する。もし半導体と磁性体の特徴を融合することができれば、磁性体の不揮発性を持ち併せたようなエネルギー使用効率が極めて高い半導体デバイスが実現できると期待される。

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図1. 半導体スピントロ二クスは半導体技術とスピントロ二クス技術を融合しに新しい分野。

半導体スピントロ二クスを実現するためには、半導体材料と親和性が高い磁性材料の研究開発が必要である。半導体・磁性体の特長を持ち合わせた材料として次の3種類に分類できる。

1.強磁性半導体

磁性材料と半導体材料の特長を融合できる新材料として強磁性半導体(Ferromagnetic Semiconductor; FMS)は特に重要な材料系であり、大変注目されている。強磁性半導体は非磁性半導体の一部の原子が磁性原子で置換された半導体であり、既存の半導体結晶成長技術とデバイスプロセス技術と極めて高い親和性を持つ上、電界効果や光照射による磁気特性の変調など、従来の半導体や強磁性金属では得られない機能を有する材料でもある。さらに、強磁性半導体は単結晶かつエピタキシャル成長可能であるため、膜厚を原子レベルで制御することが可能である。従って、強磁性半導体材料を用いれば、半導体ベースの超高速不揮発性メモリや再構成可能な超高速論理回路など、従来の半導体デバイスに無い新しい機能性半導体デバイスの創製が期待できる。

強磁性半導体としてはⅡ-Ⅵ族半導体をベースとした(Cd,Mn)Te、(Zn,Mn)Te、Ⅲ-Ⅴ族半導体をベースとした(In,Mn)Asや(Ga,Mn)Asなどが研究されている。しかし、(Cd,Mn)Te、(Zn,Mn)TeなどのII-VI族強磁性半導体は強磁性の転移温度(キュリー温度)が極めて低い(1 K程度)。一方、Ⅲ-Ⅴ族FMSである(Ga,Mn)Asや(In,Mn)Asは比較的に高いキュリー温度(最大200 K)、かつキャリア密度によって強磁性が変化する「キャリア誘起強磁性」が発現するために、大変注目されている。普通の半導体では、アップスピンとダウンスピンの人口が同じであるが、強磁性半導体では磁性原子の局在スピンと伝導電子・正孔のスピンの間に交換相互作用が働くため、バンドがスピン分裂している。言い換えると、アップスピンとダウンスピンの人口が異なる状態になっている。

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図2. 強磁性半導体の代表物質(Ga,Mn)As。この物質は強磁性が正孔濃度に依存する「キャリヤ誘起強磁性」を発現しており、電界効果を使って、強磁性を制御できる最初の物質である。左の図は(Ga,Mn)Asの結晶構造、右の図は電界効果による強磁性変効果を示す。このように、半導体デバイス特有の「電界効果」を使って、強磁性の性質を電気的に制御できる。

しかしながら、(Ga,Mn)Asを初め、今まで研究された強磁性半導体は次のような欠点がある。

  •  p型強磁性半導体しかできない
  • キュリー温度が室温より低く、室温では強磁性にならない
  • 強磁性の起源に関する統一的な理解がない

これらの欠点は強磁性半導体のデバイス応用に大きな障壁となっている。この三つの問題点を解決しなければ、強磁性半導体を用いたデバイス化が難しいと考えられる。

 

 2.強磁性金属 / 半導体へテロ構造

強磁性半導体は半導体の性質を持っている、大変都合が良い物質であるが、キュリー温度が室温以上になっていない。そこで、強磁性金属を半導体の上に製膜して、強磁性金属から半導体へスピン注入し、半導体中にアップスピンとダウンスピンの人口が異なるような、見かける上スピン分裂している状態を作る。強磁性金属のキュリー温度が一般に室温より高いため、デバイス化する観点では有利に見えるが、実際にこの系にはいつかの深刻な問題点が存在する。

  • 強磁性金属と半導体の界面制御の問題:強磁性金属は多く半導体と異なる結晶構造を持つため、半導体の上に綺麗に製膜することが難しい。また、金属と半導体の構成原子が反応したりするため、界面の状態が悪い場合が多い。
  • 多層構造の作製が難しい:強磁性金属 / 半導体 / 強磁性金属のような3層以上の多層構造の作製が難しい。
  • 伝導率ミスマッチ問題:仮に綺麗な強磁性金属 / 半導体の界面が作製できたとしても、強磁性金属と半導体の伝導率が数桁異なるために、スピン注入効率が著しく低下させた「伝導率ミスマッチ」の問題が存在する。そのため、半導体中のスピン分裂が数μV程度しか得られない。この問題を解決するために、強磁性金属 / 絶縁体 / 半導体の構造が提案されて、世界的に研究されている。しかし、現時点ではスピン効果による電圧の変化が 1 mV程度しか得られず、しかもその変化の起源もまだよく理解されていない。半導体デバイスの電源電圧が 1 V程度であることから、1 μV ~ 1 mV程度の変化はとても小さいと言わざるを得ない。

この系はデバイス化するためには、スピン効果による電圧変化が100 mV以上達成できるように、抜本的な解決策を見つけなければならない。

 

3. 強磁性ナノ微粒子 / 半導体のグラニュラ構造

この系は半導体に埋め込まれた強磁性ナノ微粒子の複合構造である。グラニュラは①多層膜の作製が簡単、②半導体 / 強磁性金属ナノ微粒子の界面が比較的に綺麗、③サイズが数nmと小さいため、様々な量子効果(例:単電子効果)が出現できるなど、多くの利点がある。欠点としては

  • 微粒子のサイズや形成位置の制御が難しい。
  • サイズが小さいため、熱揺らぎによる磁化向きが不安定化しやすい(超常磁性現象)

以上の問題点を克服できる新材料の研究開発が必要である。

 

半導体スピントロニクスは従来の金属ベースのスピントロニクスに半導体テクノロジーの成熟した技術を加えることで、従来にないスピン機能性半導体デバイスを創製しようとする。この新分野はマテリアル工学、電子物理を含む固体物理学、デバイス工学、さらに回路やシステムまで様々なスコープをカバーする研究分野である。また、この分野は学術的および応用的にもMore than Moore, Beyond Mooreの技術として大変期待さてれいる。

 

 

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