2022年度春季応用物理学会発表:NHK放送技術研究所、サムスン日本研究所との共同研究成果等4件
2022年度春季応用物理学会にて、研究員のKhang氏(NHK放送技術研究所との共同研究)、共同研究者の宗田氏、D2の白倉君、M1のTran君(サムスン日本研究所との共同研究)が下記の発表を行いました。
[23a-E205-2] Angle resolved second harmonic technique for precise evaluation of spin orbit torque in strong perpendicular magnetic anisotropy systems
〇Takanori Shirokura、Pham Nam Hai
[23p-E205-2] 二次元多結晶二硫化モリブデン原子層状膜における超低電流強磁性変調
〇宗田 伊理也、白倉 孝典、ファム ナムハイ、角嶋 邦之、筒井 一生、若林 整
[23p-E205-15] BiSb/NiO/Co接合におけるスピンホール角のNiO膜厚依存性
〇TRAN NGOCVINH、高橋 茂樹、平山 義幸、ファム ナムハイ
[24p-E202-11] Nanosecond ultralow power spin orbit torque magnetization switching induced by BiSb topological insulator
〇Nguyen HuynhDuy Khang、Takanori Shirokura、Tuo Fan、Mao Takahashi、Naoki Nakatani、Daisuke Kato、Yasuyoshi Miyamoto、Pham Nam Hai
論文掲載:スパッタリング製膜したトポロジカル絶縁体膜でスピンホール角>10を達成
スパッタリング製膜したトポロジカル絶縁体BiSb膜でスピンホール角>10を達成した研究成果がScientific Reports誌に掲載されました。
今回の研究では、高配向性BiSbを作製することによって、量産工程でよく使われているスパッタリング法で製膜したトポロジカル絶縁体BiSbでも、高スピンホール角~10.7および高電気伝導率~1.5×105 Ohm-1 m-1を達成し、スピン流源としてよく使われている重金属のWよりも300倍少ない消費電力で磁化反転を実証しました(下記の表の一番右のコラム)。
表:様々な材料のスピンホール角、電気伝導率、スピンホール伝導率、および磁化反転の消費電力(規格化)。
論文掲載:キオクシア株式会社との共同研究成果
キオクシア株式会社との共同研究で、高スピンホール効果と高熱耐久性を両立できるトポロジカルハーフホイスラ合金の一種であるYPtBi合金に関する研究成果がScientific Reports誌に掲載されました。
今回の研究では、トポロジカルハーフホイスラ合金を用いることで、トポロジカル絶縁体と同じ巨大なスピンホール角(最大4.1)を示しながら、600℃にも及ぶ高熱耐久性を実現しました。
図(a)V-VI族に基づいた従来型のトポロジカル絶縁体の結晶構造(左)とそのエネルギーバンド構造(右)。(b)今回の研究対象のトポロジカルハーフホイスラ合金の結晶構造(左)とそのエネルギーバンド構造(右)。(c)スパッタリング法で製膜したYPtBi膜におけるBi組成比の成膜温度依存性。YPtBi膜と磁性体CoPt膜のヘテロ接合膜での、磁化反転の実験における、(d)パルス電流印加シーケンス、および(e)それに対応する磁化反転の結果。青の点は電流に対して平行に0.5kOeの外部磁場を印加した際の、赤の点は反平行に0.5kOeの外部磁場を印加した際の磁化反転の結果に対応している。
プレスリリース:高スピン流生成効率と高熱耐久性を両立する新材料の開発に成功
~超低消費電力な不揮発性メモリの実用化加速へ~
2022 JOINT MMM-INTERMAG国際学会発表
D3のTuo Fan君(現研究員)が2022 JOINT MMM-INTERMAG国際学会発表に下記の発表を行いました。
2022 JOINT MMM-INTERMAG/SESSIONS/GOH – SPIN DYNAMICS
GOH-10 Low power spin-orbit torque magnetization switching in all-sputtered BiSb topological insulator / perpendicularly magnetized CoPt / MgO multilayers on Si substrate
Fan Tuo, Nguyen Khang, Pham Nam Hai
関連論文はこちらです。
論文掲載:強磁性半導体p-n接合における巨大な磁気抵抗効果
強磁性半導体p-n接合における巨大な磁気抵抗効果に関する研究成果がJournal of Applied Physics誌に掲載されました。
本研究では、p-型(Ga,Fe)Sb/n-型(In,Fe)Sb或いはn-型(In,Fe)Asの鉄系強磁性半導体のp-n接合 を作製し、そのスピン依存伝導特性を評価したところ、スピンバルブ効果による負の磁気抵抗効果およびスピン分裂効果による正の磁気抵抗効果を観測した。特に、p-型(Ga,Fe)Sb/n-型(In,Fe)Asの接合では、500%を超える巨大な磁気抵抗効果が実現できた。本研究では、半導体の最も基本的なデバイスであるp-n接合において、巨大な磁気抵抗効果を実現することで、今後の半導体デバイスにおけるスピン機能の導入が期待できる。
PASPS-26で発表
D2の白倉君がPASPS-26で下記の発表を行いました。
論文掲載:磁気熱電効果を取り入れたスピン軌道トルクの精密な測定手法の開発に成功
博士課程の白倉君の磁気熱電効果を取り入れたスピン軌道トルクの精密な測定手法の提案と実証に関する研究成果がApplied Physics Letters誌に掲載されました。また、優れた論文に贈られるEditor’sPickに選出されました。
今回の研究では、様々な磁気熱電効果を取り入れることでスピン軌道トルクを正確に評価できる方法を開発しました。スピン軌道トルクはスピンホール効果を用いて、磁性体の磁化反転を行う方法です。スピン軌道トルクは従来の方法よりも低消費電力で磁化を制御可能であるため、次世代不揮発メモリの一種である磁気抵抗メモリやマイク口波発振器など、様々なスピントロニクスデバイスヘの応用が期待されています。
低消費電力なデバイスを開発するためにはスピン軌道材料のスピン軌道トルクを正確に評価することが重要ですが、スピン軌道トルクの評価によく使用されている二次高調波法は測定時に発生した様々な磁気熱電効果の影響を受けるという欠点があり、この事実もあまり知られていませんでした。
今回の研究では理論的及び実験的にこの欠点を指摘し、磁気熱電効果を含むより一般化された角度分解二次高調波法を開発することで、より高精度なスピン軌道トルクの評価を可能にしました。本研究により、スピン軌道トルクを用いたデバイス開発及びスピン軌道材料開発が加速されることが期待されます。
Nature Communicationsに論文掲載:米国UCLA大学との共同研究成果
米国UCLA大学との共同研究成果がNature Commnucations誌に掲載されました。
本研究では、トポロジカル絶縁体と磁気トンネル接合を集積したスピン軌道トルク磁気抵抗メモリ(SOT-MRAM)素子の作製と、比較的高いトンネル磁気抵抗効果による読み出しおよびトポロジカル絶縁体による低電流密度の書き込みの実証に成功した。
SOT-MRAMは、スピンホール効果による純スピン流を用いて、高速で書き込みができる次世代の不揮発メモリ技術である。書き込み電流と電力を下げるためには、スピンホール効果が強いトポロジカル絶縁体を用いることが有望であるが、トポロジカル絶縁体と磁気トンネル接合との集積技術はこれまで確立されていなかった。今回の研究では、トポロジカル絶縁体と磁気トンネル接合を集積できることを示し、読み出しと書き込みの原理動作の実証に成功した。本研究成果により、産業界を巻き込んだ超低消費電力SOT-MRAMの研究開発が加速されると期待できる。
図1(a)トポロジカル絶縁体とCoFeB/MgO/CoFeB磁気トンネル接合(MTJ)をを集積した3端子SOT-MRAM素子の模型と(b)実際の素子の写真。(c)スパッタリング法のみで作製したBiSb-MTJ素子におけるトンネル磁気抵抗効果。(d)スピン軌道トルクによる書き込みの実証。
プレスリリース:トポロジカル絶縁体と磁気トンネル接合を集積した次世代不揮発性メモリー SOT-MRAMの実証に成功~超低消費電力SOT-MRAMの実用化へ加速~
論文掲載:米国Western Digital社との共同研究成果
米国Western Digital社との共同研究成果がIEEE Transactions on Magnetics (Early Access)に掲載されました。
今回の成果では、BiSbと磁性体界面にRuを挿入することで、スピンホール効果によるスピン注入効率が向上したことを報告しています。