世界唯一のn型電子誘起強磁性半導体(In,Fe)Asを含む量子井戸構造において、量子効果の発現および波動関数制御による強磁性変調に関する論文がAppl. Phys. Lett.誌に掲載されました。今回は量子井戸を精密エッチングで削って、量子井戸の幅を変えることで、量子井戸内の電子波動関数とFeスピンとの重なり具合を変調しました。波動関数制御による強磁性変調は世界初の実証です。従来の強磁性変調の実験はは局所的なキャリア濃度を変える必要があったため、高速化と消費電力の低減が難しいですが、今回の技術は電子濃度をほとんど変える必要がないために、超高速、超低消費電力の磁化スイッチング技術に応用できると期待しています。
L. D. Anh, P. N. Hai, M. Tanaka, “Control of ferromagnetism by manipulating the carrier wavefunction in ferromagnetic semiconductor (In,Fe)As quantum wells”, Appl. Phys. Lett. 104, 042404/1-5 (2014).
(a) (In,Fe)As強磁性半導体を含む量子井戸の構造。(b) 量子井戸の磁気色二性(MCD)のスペクトル。量子井戸の幅が小さくなるにつれて、光学遷移の特異点エネルギーが系統的にブルーシフトしたことが分かる。
精密エッチングによって量子井戸を削った時の(a)磁気円二色性(MCD)のスペクトル、(b) E1ピークの強度の変化、 (c)E1ピーク位置のバルク値からの変化量、(d) キュリー温度の変化。注目すべき点は表面のInAs層を削っただけでも、真ん中の強磁性(In,Fe)As層のキュリー温度も変化する。これは量子井戸内の電子波動関数が基板側に移動したため、波動関数とFeスピンとの重なりが減少したためである。