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Yearly Archives: 2023
応用物理学会講演奨励賞の記念講演
論文掲載:室温強磁性半導体によるスピン注入の初実証
室温強磁性半導体によるスピン注入の初実証に関する研究成果はScientific Reports誌に掲載されました。本研究は東京大学との共同研究の成果です。
室温強磁性半導体の実現は固体物性と材料科学において、長年の夢の一つです。たとえば、2005年のScience誌に“Is it possible to create magnetic semiconductors that work at room temperature?”は125重要課題の一つとして掲載されています(125 big questions that face scientific inquiry over the next quarter-century. Commemorative issue celebrating the 125th anniversary of the science magazine)。しかし、今迄に研究された強磁性半導体、たとえばGaMnAsは室温よりキュリー温度が低く、室温動作が極めて困難でした。一方、我々はFe系強磁性半導体を提案し、2012年に世界初のn型強磁性半導体InFeAs, 2014年にp型室温強磁性半導体GaFeSb、さらに2018年にn型室温強磁性半導体InFeSbを実現してきました。しかし、以前にも、室温強磁性半導体を主張した研究も多くあり、その起源が未解明なものがほとんどであり、本当に真性な室温強磁性半導体が出来たのか、それとも半導体中の単なる磁性偏析の粒子だけなのか、議論が多くありました。一時期には、強磁性半導体の研究に対する不信感から、UMO (Unidentified Magnetic Object)と批判されてきました。ちなみに、高温超伝導でもUSO (Unidentified Superconducting Object)という言葉もあり、先日にNature誌に掲載された室温超電導の論文が取り下げられたばかりです。強磁性半導体においても、本当に室温強磁性ができたかどうか、単に磁性の評価だけでなく、他面的に証明する必要がありました。
今回に我々は室温強磁性半導体GaFeSbを用いて、重要な機能の一つ「スピン注入機能」をスピンポンピング法およびトポロジカル絶縁体BiSbの巨大な逆スピンホール効果を用いて実現しました(図1)。これにより、我々が開発に成功した強磁性半導体はちゃんと室温でスピン注入源として動作できることを示し、真性な室温強磁性半導体であることを示しました。
図1.BiSbトポロジカル絶縁体/GaFeSb強磁性半導体におけるスピンポンプピングによるスピン注入および逆スピンホール効果による起電力の発生。
論文掲載:超高密度磁気記録4 Tbit/in2に向けた新しい磁気センサー技術
超高密度磁気記録4 Tbit/in2に向けた新しい磁気センサー技術「SOTセンサー」に関する研究成果がApplied Physics Letters誌に掲載されました。本研究はスト―レージ大手メーカのWestern Digitals社との共同研究の成果です。
従来のTMR効果を用いたTMRセンサーは限界に向かいつつあります。これは、TMRセンサーには、固定層を含み、最低でも2の磁性層が必要なため、20 nm以下の微細なデバイスの作製が困難な他、熱雑音やスピン移行トルク雑音が増大するためです。そこで、逆スピンホール効果を用いるSOTセンサー(図1)を用いれば、TMRセンサーの問題点を解決できます。しかし、SOTセンサーを実現するためには、高いスピンホール効果を有する材料が必要です。従来の重金属を用いると、SOTセンサーの高いSNR比を実現できません。そこで、Pham研究室で開発したBiSbトポロジカル絶縁体を用いれば、高いSNR比を実現できることを理論的に示し、かつその実証を行いました。本研究成果により、超高密度磁気記録4 Tbit/in2の実現が大きく前進します。
図1:SOTセンサーの構造