■ 本研究の背景 ■ 本研究のテーマ ■ 本研究の特長 ■ 代表的な成果
代表的な成果
- H. Wu, A. Chen, P. Zhang, H. He, J. Nance, Ch. Guo, J. Sasaki, T. Shirokura, P. N. Hai, B. Fang, S. A. Razavi, K. Wong, Y. Wen, Y. Ma, G. Yu, G. P. Carman, X. Han, X. Zhang, K. L. Wang, “Magnetic memory driven by topological insulators”, Nature Communications 12, 6251 (2021).
本研究では、トポロジカル絶縁体と磁気トンネル接合を集積したスピン軌道トルク磁気抵抗メモリ(SOT-MRAM)素子の作製と、比較的高いトンネル磁気抵抗効果による読み出しおよびトポロジカル絶縁体による低電流密度の書き込みの実証に成功した。
SOT-MRAMは、スピンホール効果による純スピン流を用いて、高速で書き込みができる次世代の不揮発メモリ技術である。書き込み電流と電力を下げるためには、スピンホール効果が強いトポロジカル絶縁体を用いることが有望であるが、トポロジカル絶縁体と磁気トンネル接合との集積技術はこれまで確立されていなかった。今回の研究では、トポロジカル絶縁体と磁気トンネル接合を集積できることを示し、読み出しと書き込みの原理動作の実証に成功した。本研究成果により、産業界を巻き込んだ超低消費電力SOT-MRAMの研究開発が加速されると期待できる。
プレスリリース:トポロジカル絶縁体と磁気トンネル接合を集積した次世代不揮発性メモリー SOT-MRAMの実証に成功~超低消費電力SOT-MRAMの実用化へ加速~ - N. H. D. Khang, Y. Ueda, P. N. Hai, “A conductive topological insulator with large spin Hall effect for ultralow power spin–orbit torque switching”, Nature Materials 17, 808 (2018).
本研究は次世代スピン軌道トルク磁気抵抗メモリの実現に向けた、トポロジカル絶縁体であるBiSbの(012)面方位を用いた世界最高性能の純スピン注入源を開発した。スピン軌道トルク磁気抵抗メモリは、スピンホール効果による純スピン流を用いて、高速で書き込みができる次世代の不揮発メモリ技術である。しかし、従来から純スピン流源として使われている白金やタングステンなどの重金属は、スピンホール角が低い(0.1~0.4程度)という問題がありました。本研究では、BiSb(ビスマス/アンチモン)トポロジカル絶縁体薄膜を評価したところ、電気伝導率が金属並みと高い上に、室温でも超巨大なスピンホール角(~52)を示すBiSb(012)面を発見した。さらに今回、BiSb(012)の薄膜を用いて、従来よりも1桁~2桁少ない電流密度でMnGa(マンガン/ガリウム)垂直磁性膜の磁化反転を実証した。このBiSbをスピン軌道トルク磁気抵抗メモリへ応用すると、データの書き込みに必要な電流を1桁、エネルギーを2桁低減でき、さらに記録速度を20倍、記録密度を1桁向上させられる。本成果は、トポロジカル絶縁体を用いた場合、特性が優れたSOT-MRAMを実現することで、トポロジカル絶縁体の産業応用のきっかけになる可能性がある。
トポロジカル絶縁体を応用した高性能磁気メモリが実現できれば、組み込みメモリ(SRAMやFLASH)やワーキングメモリ(DRAM)の置き換えができることから、電子機器の省エネルギー化というインパクトがあるだけでなく、5~10兆円の新メモリ市場の展開も期待できる。
プレスリリース:トポロジカル絶縁体で世界最高性能の純スピン注入源を開発。次世代スピン軌道トルク磁気抵抗メモリの実現に期待 - L. D. Anh, P. N. Hai, M. Tanaka, “Observation of spontaneous spin-splitting in the band structure of an n-type zinc-blende ferromagnetic semiconductor”, Nature Communications 7, 13810 (2016).
本研究は当時(2012年)不可能とされてきたN型電子誘起強磁性半導体(In,Fe)Asの実現に成功したが、理論的な予測よりも数100倍以上大きいなキュリー温度を示したため、長い間そのメカニズムが理解されていなかった。
今回の研究では、(In,Fe)Asを含むスピン江崎ダイオードを作製し、トンネル分光法を用いることによって、(In,Fe)Asの伝導帯の自発スピン分裂を観測できたとともに、従来の標準理論ではこのような自発スピン分裂とキュリー温度を同時に説明できないことを示し、従来の標準理論には欠陥があることを明らかにした。従って、本研究成果は強磁性半導体の物性および半導体スピンデバイスの研究に新しい知見を与えることができた。
プレスリリース: スピン自由度を用いた次世代半導体デバイス実現へ大きな進展 - P. N. Hai, S. Ohya and M. Tanaka, “Long spin-relaxation time in a single metal nanoparticle”, Nature Nanotechnology 5, 593 (2010).
本研究は強磁性MnAsナノ微粒子のスピン緩和時間をスピン依存単電子トンネル伝導を用いて評価した。トンネル磁気抵抗効果の印加電圧に対して、振動する様子から、MnAsナノ微粒子のスピン緩和時間が約10 μsと非常に長いことを明らかにした。また、この長いスピン緩和時間はナノ金属微粒子における量子サイズ効果を用いて、定量的に説明できることを示した。本研究で観測したスピン緩和時間は金属のナノ微粒子においては、現在でも世界記録である。 - P. N. Hai, S. Ohya, M. Tanaka, S. E. Barnes, and S. Maekawa, “Electromotive force and huge magnetoresistance in magnetic tunnel junctions”, Nature 458, 489 (2009).
本研究は、磁化のダイナミックによって発生するスピン起電力を初めて観測に成功した。これにより、古典的なファラデーの電磁誘導の法則に加えて、量子力学的な現象であるスピン起電力を磁性体において考慮する必要があることを示した。