下記の発表が2014年応用物理学会秋季学術講演会の「講演奨励賞」を受賞しました!
[20a-S10-8] Enhancement of ferromagnetism by manipulating the wavefunctions in n-type ferromagnetic semiconductor (In,Fe)As quantum wells
○Duc Anh Le,Nam Hai Pham,笠原裕一,岩佐義宏,田中雅明
本発表では、(In,Fe)As量子井戸において、電子の波動関数とFeスピンの重なりを電界効果を使って制御し、従来の手法よりも二桁以上少ない電子濃度でキュリー温度を増大させることに成功しました。本研究の手法が超高速かつ超低消費電力の磁化スイッチング技術として期待できます。
図1. キュリー温度のゲート電圧依存性。ゼロ電圧では、波動関数と(In,Fe)As層の重なりが小さいため、キュリー温度が27 K程度と小さい。しかし、2 Vのゲート電圧を印加して、波動関数のピークと(In,Fe)Asの位置を合わせると、キュリー温度が35 Kまで急増した。さらに大きいゲート電圧を印加すると、波動関数のピークが(In,Fe)Asの位置を過ぎたため、キュリー温度が減ったことが分かる。また、チャンネルの電子シート濃度がほんとど変わらないことが分かる。電子シート濃度が1011 cm-2しか変化しないにもかかわらず、8 Kのキュリー温度の変調ができた。ちなみに、従来の技術では、1013 ~ 1014 cm-2程度のシート濃度の変化がないとキュリー温度が変調できない。
では、なぜ従来の技術では、我々のように波動関数制御による強磁性変調ができないでしょうか?それは従来の強磁性半導体や強磁性金属薄膜においてキャリアの移動度が低くて、キャリアのcoherencyが小さいため、フェルミレベルにおける量子サイズ効果が発現しないためです。たとえば、GaMnAsの超薄膜の電界印加実験では、3次元モデルを使って、解析すると、実験データをよく再現できます。つまり、GaMnAsは非常に薄い膜にしても、やはり3次元の材料として振る舞いを示します。それに対して、ファム准教授が開発したInFeAsでは、最大40nm幅の量子井戸でも量子サイズ効果を観測できました。つまり、InFeAsは非常に高い電子のcoherencyを有することが分かります。従って、今回のように、電子の波動関数を制御できて、効率よく強磁性を変調することができます。今回の成果はまさに、「強磁性半導体」ならではの成果だと言えます。